自営業介護者のための「自分時間」確保術。仕事と介護を上手に分けるコツ
仕事と介護の間で自分を見失わないために
いつも親御さんのケアと、ご自身の仕事に追われている皆様、本当にお疲れ様です。「ケアする私も大切に」というこのサイトにたどり着いてくださったということは、もしかすると今、心身の疲れを感じていらっしゃるのかもしれません。
特に自営業の場合、仕事と介護の境界線があいまいになりがちです。納期やお客様対応に追われるかと思えば、親御さんのケアや突発的な状況対応も同時に発生する。どちらも責任が伴うため、気持ちを休める暇もなく、常に「仕事モード」と「介護モード」の間を行き来しているように感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような状況が続くと、知らず知らずのうちに疲労は蓄積し、心身のバランスを崩してしまうことにもつながりかねません。しかし、介護は長期にわたることが多いです。ご自身が倒れてしまっては、親御さんのケアも続けることが難しくなってしまいます。
だからこそ、日々の生活の中に意図的に「自分だけの時間」、つまり仕事でも介護でもない「オフの時間」を作り、心と体を休ませることが非常に大切です。今回は、特に自営業で介護をされている方が、どのように仕事と介護のオンオフを切り替え、「自分時間」を確保していくかについて、具体的なヒントをお伝えします。
なぜ、自営業の介護者はオンオフの切り替えが難しいのか
自営業という働き方は、自由度が高い反面、仕事とプライベートの区別がつきにくいという特性があります。自宅兼仕事場の場合、常に仕事が視界に入り、気持ちが休まりにくいかもしれません。加えて介護が加わると、その境界線はさらに曖昧になります。
- 時間的な制約: お客様対応、納品、経理といった仕事のタスクに加え、親御さんの食事、入浴、通院の付き添い、安否確認など、介護には終わりがありません。いつ何が起こるか予測しづらいこともあり、計画通りに進まないことも日常茶飯事です。
- 場所的な制約: 自宅で仕事をし、自宅で介護をする場合、物理的な空間の区切りが難しく、気持ちの切り替えが困難になります。
- 精神的なプレッシャー: 仕事の責任と、親御さんに対する責任、その両方からのプレッシャーを常に感じています。完璧にやろうと頑張りすぎてしまうことも、オンオフがつけられない一因となります。
このように、自営業と介護の組み合わせは、心身に休息のサインが出ても、立ち止まること自体に罪悪感を感じてしまうような状況を作り出しやすいのです。しかし、オンオフの切り替えは、決して「サボり」ではありません。むしろ、長く介護を続けるため、そしてご自身の人生を守るために、必要不可欠な「戦略」であると考えてみてください。
自分時間を作るための具体的なオンオフ切り替え術
では、具体的にどのようにして仕事と介護、そして自分時間のオンオフを切り替えていけば良いのでしょうか。すぐに全てを実践するのは難しくても、できそうなことから少しずつ試してみてください。
1. 物理的・時間的な「区切り」を作る
目に見える、あるいは時間による区切りは、気持ちの切り替えを助けます。
- 仕事スペースとリラックススペースを分ける: 可能であれば、仕事をする部屋や机と、リラックスする場所を分けましょう。仕事が終わったら、仕事スペースから離れることを意識します。難しい場合は、仕事関連の書類を片付ける、パソコンを閉じるだけでも効果があります。
- 「定時」を意識する: 自営業には定時がありませんが、「今日の仕事はここまで」と意識的に区切りをつける時間を作りましょう。その時間を過ぎたら、仕事関連のメールや電話は最低限にする、といったルールを自分に課すのです。
- 休息時間を「先に」スケジュールに入れる: スケジュール帳に、仕事や介護の予定と同じように「休憩」「自分時間」の枠を書き込んでみましょう。「〇時~〇時までは休憩」「この日は〇時間だけ好きなことをする」と決めてしまうのです。予定として組み込めば、他のタスクに流されにくくなります。
- 服装を変える: 仕事モードの服装から、リラックスできる部屋着に着替えることも、気持ちをオフにする有効な手段です。
2. 意識的な「切り替えスイッチ」を作る
特定の行動をきっかけに、気持ちを切り替える習慣を身につけます。
- 短いルーティンを作る: 仕事や介護から解放されたら、「お茶を一杯淹れる」「好きな音楽を1曲だけ聴く」「ベランダに出て深呼吸をする」など、短時間でできる切り替えのルーティンを決めましょう。このルーティンを行うことで、「よし、ここからはオフだ」と脳に認識させます。
- 「考えない時間」を作る練習: 意識的に仕事や介護から離れる時間を作る練習をします。最初のうちは、ふとした瞬間に仕事や介護のことが頭をよぎるかもしれません。それは自然なことです。ですが、「今はオフの時間だから、また後で考えよう」と、そっと思考を横に置く練習をしてみてください。
- 五感を活用する: アロマを焚く、お気に入りの飲み物を飲む、肌触りの良いものに触れる、静かな音楽を聴くなど、五感を心地よく刺激することは、気持ちをリラックスさせ、オンオフの切り替えに役立ちます。
3. 周囲に助けを求める、頼ることをためらわない
自営業は孤独な側面もありますが、介護もまた一人で抱え込みがちです。周囲のサポートを得ることで、自分時間を作る物理的な余裕を生み出すことができます。
- 家族に状況を伝える: 可能であれば、離れて暮らす家族や親戚に、介護の負担について正直に話してみましょう。短時間でも良いので、交代で親御さんの様子を見に来てもらう、話し相手になってもらうなど、具体的な協力を相談します。
- 仕事関係者とのコミュニケーション: 介護の状況すべてを話す必要はありませんが、連絡がつきにくい時間があるかもしれない、急な対応で作業が中断することがあるかもしれないといった、仕事への影響について、信頼できる範囲で伝えておくことも検討できます。理解を得られれば、精神的なプレッシャーが軽減される場合があります。
- 利用できるサービスを検討する:
- 地域の互助・ボランティア: 市町村の社会福祉協議会やNPOなどが、住民による軽微な家事支援や話し相手、見守りなどのボランティアサービスを提供している場合があります。介護保険サービスほど手続きが複雑でなく、柔軟に対応してもらえることもあります。お住まいの地域の社協などに問い合わせてみましょう。
- 民間の保険外サービス: 介護保険ではカバーできない部分(同居家族のための食事作り、掃除、買い物など)を依頼できる民間サービスは増えています。費用はかかりますが、時間をお金で買うと考えれば、ご自身の負担軽減と時間確保につながります。ネット検索が苦手な場合は、地域の情報誌を見たり、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談したりして情報を集めることも可能です。
- 配食サービス: 食事の準備は毎日の大きな負担です。様々な配食サービスがあり、高齢者向けに栄養バランスや食べやすさに配慮されたお弁当を自宅まで届けてくれます。毎日でなくても、週に数回利用するだけでも、献立を考えたり調理する時間を休息に充てることができます。「〇〇市 配食サービス」などで検索するか、担当のケアマネジャーに相談してみましょう。
サービスを利用することに、「お金がかかる」「人に頼むのは気が引ける」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご自身の心身の健康を維持することは、仕事の継続や、結果として親御さんのより良いケアにつながります。必要な投資と考えてみてください。
4. 完璧を目指さない。「休むこと」を自分に許可する
最も大切なのは、完璧を目指さないことです。仕事も介護も、100%でなくても大丈夫です。
- 「〜すべき」「〜しなければならない」から離れる: 介護に「こうあるべき」という正解はありません。他の人と比べたり、理想通りに進まなかったりしても、ご自身を責めないでください。「今日はこれだけできた」「これだけ休めた」と、できたこと、休めたことを肯定的に捉えましょう。
- 休息は「必要なこと」と認識する: 休息は、遊んでいる時間でも、サボっている時間でもありません。疲労を回復させ、心身の健康を保ち、明日への活力を養うための、介護や仕事と同じくらい、あるいはそれ以上に必要な時間です。休むことに対して罪悪感を感じる必要は一切ありません。
まとめ:自分自身を大切にすることが、長く続ける力になる
自営業で介護を両立することは、非常にエネルギーのいることです。仕事と介護の境目がなく、常に気を張っている状態では、心も体も休まる暇がありません。
だからこそ、意識的にオンオフを切り替え、「自分時間」を確保する工夫が必要です。物理的な区切り、時間的な区切り、そして意識的な切り替えスイッチを生活に取り入れ、利用できるサービスや周囲の協力を得ることで、ご自身の負担を軽減し、休息する時間を作り出してください。
完璧を目指さず、休むことを自分に許可してください。ご自身の心と体が健康であってこそ、仕事も介護も続けることができます。「ケアする私も大切に」。この言葉を忘れず、ご自身を労わる時間を意識的に作り出していきましょう。小さな一歩からでも、きっと変化を感じられるはずです。