医師や看護師に親御さんの状態を正確に伝えるには?介護者が知っておきたい医療連携のコツ
介護生活も数年が経ち、親御さんの体調の変化にこれまで以上に気を配ることが増えてきた方もいらっしゃるかもしれません。医療機関とのやり取りも、診察や入院、検査などで増えてきたと感じているのではないでしょうか。
日々の介護に加えて、医療機関との連携は多くの介護者の方にとって負担に感じやすい部分です。特に、限られた時間の中で親御さんの状態を正確に医師や看護師に伝え、必要な情報を聞き出すことは簡単ではありません。どのように話せば良いのか、何を聞いておけば良いのか分からず、不安を感じることもあるでしょう。
しかし、医療機関とのスムーズな連携は、親御さんの適切な治療やケアにつながるだけでなく、介護者であるご自身の負担や不安を減らすためにも非常に重要です。
この記事では、医療機関との連携で役立つ具体的なコツや、事前に準備しておくと良いことについてご紹介します。多忙な日々の中でも実践できる方法を中心に解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
なぜ医療機関との連携が重要なのか
親御さんの介護において、医療機関との連携は欠かせません。その重要性は、いくつかの点にあります。
まず、親御さんの健康状態や病状を医師や看護師に正確に伝えることで、最適な治療方針やケア方法を判断してもらうことができます。日々の変化や気になる症状を詳細に共有することは、病気の早期発見や悪化防止につながることもあります。
次に、医療専門家からの正確な情報を得ることで、介護者は親御さんの状態をより深く理解することができます。これにより、今後の見通しを立てやすくなり、漠然とした不安を軽減することにつながります。また、ご自身が行うケアの内容についても、専門家のアドバイスに基づき、より安心して行うことができるようになります。
さらに、医療機関と介護サービス事業所(ケアマネジャー、訪問看護、訪問介護など)が連携することで、情報が共有され、親御さんを取り巻く多職種が一体となってサポートする体制が築かれます。これにより、介護者の情報伝達の手間が減り、負担軽減にもつながります。
医師や看護師に「伝わる」情報とは
診察や面談の時間は限られています。その中で、親御さんの状態を効率よく、かつ正確に伝えるためには、伝え方を工夫することが大切です。具体的にどのような情報を、どのように伝えれば良いのでしょうか。
「いつから」「どんな症状が」「どう変化したか」を具体的に
最も重要なのは、親御さんの「いつもと違う様子」について、具体的に伝えることです。「なんだか元気がない」「食欲がないみたい」といった曖昧な表現だけでなく、以下のような点を加えてみてください。
- いつから始まったか: 「昨日から」「〇日前から」など、期間を明確に。
- どのような症状か: 「熱がある(何度くらいか)」「咳が出る」「お腹が痛い(どのあたりか、どんな痛みか)」「体がだるそう」など、具体的な症状を伝えます。
- どのように変化したか: 「だんだんひどくなってきた」「良くなったり悪くなったりを繰り返している」「朝は元気だったが午後からぐったりしている」など、症状の経過を伝えます。
- きっかけや思い当たることはあるか: 「転んでから足を痛がる」「新しい薬を飲み始めてから発疹が出た気がする」など、原因と思われることがあれば伝えます。
- 試したこと、効果はあったか: 「市販薬を飲ませたが効かない」「温めてみたら少し楽になったようだ」など、自宅で試したことやその効果も伝えます。
普段と違う点に注目する
病気や体調不良だけでなく、日々の生活の中での変化も重要な情報です。
- 食事: 食欲はどうか、量は減ったか、食べこぼしが増えたか。
- 睡眠: 夜眠れているか、昼間にうとうとしているか、夜中に何度も起きるようになったか。
- 排泄: トイレの回数、量、色や状態に変化はないか、便秘や下痢はないか。
- 気分・精神状態: イライラしている、落ち込んでいる、そわそわしている、ぼーっとしていることが増えた、などの精神的な変化。
- 活動量: 以前より動きが鈍くなった、すぐに疲れるようになった、あまり部屋から出たがらない、など。
これらの普段との違いは、医療専門家が親御さんの全体的な状態を把握する上で貴重な手がかりとなります。
服用中の薬やアレルギー情報
現在服用している薬(病院で処方された薬、市販薬、サプリメントなど全て)や、過去にアレルギー反応が出た薬、食品などは必ず伝えてください。お薬手帳があれば持参すると良いでしょう。
受けている介護サービス内容
訪問介護、デイサービス、訪問看護など、現在利用している介護サービスの内容や頻度を伝えることも役立ちます。特に訪問看護が入っている場合は、看護師さんが体調をチェックしていることもあるため、その情報も共有できると連携がスムーズになります。
「箇条書き」や「メモ」の有効性
口頭だけで伝えようとすると、重要な情報を忘れてしまったり、うまく整理できなかったりすることがあります。そこでおすすめなのが、事前に伝えたいことをメモしておくことです。
スマートフォンやパソコンが使える方であれば、簡単なメモアプリやテキストファイルに箇条書きでまとめておくと、診察時などにすぐに見返すことができます。新しいアプリなどが苦手な方でも、紙のメモ帳に書き出しておくだけで十分効果があります。
- 受診の目的、医師に聞きたいこと
- 最近の親の気になる症状(いつから、どんな様子か)
- 普段と違うと感じること(食事、睡眠、気分など)
- 現在使っている薬やサプリメント
- 聞いておきたいこと(病状の見通し、今後の注意点、次の受診時期など)
メモを見ながら話すことで、伝え忘れを防ぎ、冷静に必要な情報を伝えることができます。
質問力を高める:必要な情報を引き出すコツ
医師や看護師からの情報を正確に理解し、今後の介護に役立てるためには、「質問する力」も重要です。
聞きたいことを事前にリストアップ
伝えたいことのメモと同様に、聞きたいことも事前にリストアップしておきましょう。診察や面談の場で急に聞こうとしても、緊張したり、時間の制限があったりして、聞きたかったことを忘れてしまうことがあります。
- 親御さんの病状について、現状と今後の見通し
- 処方された薬について(何の効果があるのか、副作用は、飲み方は)
- 日常生活での注意点(食事で気をつけること、運動はどこまで大丈夫か)
- 緊急時はどうすれば良いか(どんな症状が出たら連絡すべきか、連絡先は)
- 次回の受診はいつ頃か、それまでに準備しておくことはあるか
遠慮せずに質問する
短い診察時間では、質問しにくいと感じるかもしれません。しかし、分からないことや不安なことは、遠慮せずに質問することが大切です。医療専門家は多くの患者さんを診ていますが、介護者であるご自身は親御さんの専門家です。日々の様子を知っているのは、ご自身です。親御さんのために、そしてご自身の安心のために、疑問点を解消しましょう。
もし、忙しそうで聞きにくい雰囲気であれば、「いくつか質問させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」と一声かけてみると良いかもしれません。
専門用語が分からなければ遠慮なく聞く
医師の説明には専門用語が含まれることがあります。「〇〇という状態ですね」などと言われても、それが具体的にどういうことなのか分からない場合があるかもしれません。そのまま聞き流さず、「〇〇というのは、具体的にどういう状態のことでしょうか?」と尋ねてみましょう。平易な言葉で説明してもらうことで、理解が深まります。
説明された内容をメモする、復唱する
説明を聞いた内容をその場でメモしておくと、後から見返して確認できます。難しい場合は、「今おっしゃったのは、〇〇ということでしょうか?」と復唱してみるのも有効です。これにより、聞き間違いを防ぎ、医師や看護師も伝わっているか確認できます。
次回の受診までに準備しておくこと
医師から「次に受診するまでに、〇〇を記録しておいてください」などと指示がある場合があります。例えば、毎日決まった時間に血圧や体温を測る、食事内容や排泄状況を記録するなどです。これらの記録は、次回の診察で親御さんの状態をより正確に把握するために非常に役立ちます。記録方法についても、手書きのノートで良いか、専用の用紙があるかなどを確認しておくとスムーズです。
介護サービス事業者との連携
親御さんのケアに関わるのは、医療機関だけではありません。ケアマネジャー、訪問看護師、訪問介護ヘルパー、デイサービス職員など、様々な専門家がサポートしています。これらのサービス提供者との連携も、医療連携と同様に重要です。
ケアマネジャーは、医療機関と介護サービス事業所の間で情報をつなぐ重要な役割を担っています。親御さんの病状の変化や医療機関での受診内容などをケアマネジャーに正確に伝えることで、ケアプランの見直しや関係各所への情報共有が進みやすくなります。
また、訪問看護を利用している場合は、訪問看護師が親御さんの体調を日々確認し、医療機関へ報告してくれることもあります。訪問介護ヘルパーやデイサービス職員も、日々の親御さんの様子に気づくことがあります。これらの情報を介護者であるご自身が把握し、必要に応じて医療機関やケアマネジャーに伝えることで、よりきめ細やかなケアにつながります。
介護者から積極的に、関係者間で情報を共有してもらうよう促すことも、スムーズな連携を築く上で有効です。「この間の診察で先生に〇〇と言われたのですが、ケアマネさんやヘルパーさんにも伝えておいた方が良いでしょうか?」などと相談してみると良いでしょう。
緊急時の対応について確認しておくべきこと
急な体調変化は、介護者にとって最も不安を感じる瞬間のひとつです。慌てないためにも、事前に緊急時の対応について確認しておきましょう。
- かかりつけ医の連絡先: 診療時間内・時間外の連絡先を確認しておきます。
- 休日・夜間の対応: かかりつけ医が対応できない場合の連絡先(救急相談窓口や、連携している病院など)を確認します。
- 救急車を呼ぶべきか判断に迷う場合の相談先: 全国の「救急安心センター事業(#7119)」や、お住まいの地域の相談窓口など、専門家からアドバイスを受けられるサービスを知っておくと安心です。
- 入院時の準備: 親御さんがもし入院となった場合、すぐに必要になるもの(健康保険証、診察券、お薬手帳、印鑑、着替え、洗面用具など)をリストアップしておいたり、まとめておいたりすると、いざというときに慌てずに済みます。
まとめ
親御さんの介護において、医療機関との連携は、避けては通れない大切な要素です。日々の忙しさの中で、医師や看護師とのやり取りに難しさを感じることもあるかもしれませんが、正確な情報伝達と適切な質問は、親御さんの健康を守るだけでなく、介護者であるご自身の不安を軽減し、負担を軽くすることにもつながります。
今回ご紹介した、メモを活用すること、普段との違いに注目すること、そして遠慮せずに質問するといった具体的なコツは、新しいサービスや特別な道具を使わずとも、今日からでも実践できるものばかりです。
介護は、一人で全てを抱え込む必要はありません。親御さんに関わる医療や介護の専門家を「チーム」として捉え、積極的に情報を共有し、協力を得ることで、ご自身の心身も守りながら、安心して介護を続けることができます。
医療連携のコツを掴んで、少しでも日々の介護の負担を減らし、ご自身の時間や心身のケアを大切にしてください。