介護中の「見守り疲れ」を軽くする。負担を減らす具体的な方法とは
毎日の介護、本当にお疲れ様です。特に自宅で親御さんと一緒に過ごされている場合、無意識のうちに「見守り」の時間が大きな負担になっていることがあります。安全に過ごしてもらいたい、何かあったらすぐに気づいてあげたいという気持ちから、常に気を張ってしまい、ご自身の心や体が休まらない、という状況はないでしょうか。
特に自営業などで自宅で仕事をしている方にとって、仕事と介護の境界線があいまいになり、四六時中見守っているような感覚に陥りやすいかもしれません。このような状態が続くと、「見守り疲れ」として、心身に様々な影響が出てくることがあります。
この記事では、自宅での見守り介護で感じる心身の負担を少しでも軽くするための、具体的な方法や考え方をご紹介します。一人で抱え込まず、ご自身も大切にしながら介護を続けていくためのヒントとして、ご活用いただければ幸いです。
「見守り疲れ」が心身に与える影響
「見守り疲れ」とは、文字通り、高齢の親御さんなど被介護者の安全や状態を常に気にかけ、目を配り続けることで生じる心身の疲労のことです。座ってそばにいるだけ、特に何もしていないように見えても、意識は常に親御さんに向かっているため、脳は休息できていません。
このような状態が長く続くと、以下のような影響が出やすくなります。
- 精神的な疲労: 常に緊張状態にあるため、リラックスできない。イライラしやすくなる、不安感が募る、落ち込みやすい、などの症状が現れることがあります。
- 身体的な疲労: 知らず知らずのうちに体に力が入っていたり、質の良い睡眠が取れていなかったりすることで、肩こり、頭痛、倦怠感などが生じます。
- 集中力の低下: 脳が休まらないため、仕事や他のことに集中するのが難しくなります。簡単なミスが増えたり、判断力が鈍ったりすることもあります。
- 自分の時間の喪失: 見守りのために家を離れにくく、趣味や友人との交流など、ご自身の時間がほとんど持てなくなります。
これらのサインは、「これ以上無理をしないでください」という体からのメッセージです。見守り疲れを放置すると、介護の質が低下するだけでなく、ご自身の健康を損ねてしまう可能性もあります。自分自身を大切にすることが、結果として長く穏やかに介護を続けることにつながります。
見守りの負担を減らすための具体的な工夫(自宅内)
常に完璧な見守りをすることは、物理的にも精神的にも不可能ですし、必要ありません。大切なのは、リスクを減らし、効率的に見守りを行い、ご自身の負担を軽減することです。自宅内でできる工夫から始めてみましょう。
1. 安全な環境を整える
転倒や誤嚥など、万が一の事故を防ぐための環境整備は、見守る側の安心にもつながります。
- 動線の確保: 廊下や居室の通路に物を置かず、安全に歩けるようにします。
- 手すりの設置: 玄関、廊下、トイレ、浴室など、移動が多い場所に手すりを設置することで、転倒リスクを減らせます。必要であれば、工事不要で設置できるタイプもあります。
- 段差の解消: 小さな段差でもつまずきの原因になります。可能であればスロープを設置したり、段差解消具を活用したりします。
- 明るさの確保: 薄暗い場所は危険です。足元や階段、トイレなど、移動する場所を十分な明るさで照らします。
- 滑り止め対策: 浴室や水回り、カーペットの端など、滑りやすい場所に滑り止めマットなどを活用します。
こうした環境整備は、親御さんの安全を守るだけでなく、「危ないかも」と常にヒヤヒヤしながら見守る側の精神的な負担も軽減してくれます。お住まいの状況に合わせて、できることから少しずつ進めてみましょう。
2. ルーティンを作り、見守る時間を区切る
「常に見ていなければ」という思い込みから解放されることも重要です。一日の生活の中で、ある程度ルーティンを決めることで、見守りの時間とご自身の時間を意識的に区切ることができます。
- 安全な場所の確保: 親御さんが一人でいても比較的安全に過ごせる場所(リビングのソファや椅子など)を決めます。
- 短時間でも離れる勇気: 例えば、「トイレに行っている間だけ」「郵便物を取りに行っている間だけ」など、短時間であれば親御さんが安全な場所にいることを確認した上で、物理的にその場を離れてみましょう。最初は不安かもしれませんが、少しずつ慣れていくことが大切です。
- 時間を決めて休憩: 「この30分はコーヒーを飲んで休憩する」「この1時間は仕事に集中する」など、意識的に休憩やご自身の活動時間を設定し、その間は必要最低限の見守りにとどめるようにします。
3. コミュニケーションを活用する
声かけは、安否確認としてだけでなく、親御さんの安心にもつながります。
- 定期的な声かけ: ずっとそばにいなくても、数時間に一度「大丈夫?」「何かいるものある?」などと声をかけることで、親御さんの様子を確認できます。
- インターホンや内線: 離れた部屋にいる場合でも、簡単な方法で声かけや呼び出しができるようにすると便利です。高価なシステムでなくても、市販の呼び出しチャイムなども活用できます。
見守りをサポートするサービスやツールの活用
情報収集が苦手、という方もいらっしゃるかもしれませんが、最近では比較的簡単に利用できるサービスやツールも増えています。専門的なシステムではなくても、日常の延長線で使えるものから試してみることをお勧めします。
1. 介護サービスの活用
最も信頼できる「見守り」は、やはり専門職によるものです。
- 訪問介護: ヘルパーさんが自宅を訪問し、食事や排泄、入浴などの介助を行います。これらのサービス提供中に、ヘルパーさんは親御さんの様子を観察し、変化があれば報告してくれます。週に数回利用するだけでも、その時間は物理的に見守りから解放され、プロの目による安心が得られます。
- デイサービス: 日中、施設で他の利用者の方やスタッフと交流しながら、機能訓練やレクリエーションなどを行います。デイサービスを利用している間は、ご自身の時間を休息や仕事に充てることができます。施設では常にスタッフが複数体制で見守っているため、自宅で見守るよりも高い安全性が確保されます。
- ショートステイ: 短期間施設に入居し、介護サービスを受けられます。数日から数週間の利用が可能で、介護者の休息(レスパイトケア)として非常に有効です。この間は、見守りのプレッシャーから完全に解放され、心身をリフレッシュできます。
これらのサービスは、ケアマネジャーに相談すれば、親御さんの状況やご自身の希望に合わせて利用計画(ケアプラン)を作成してもらえます。「介護サービスの利用、何から始める?ケアマネジャーとの出会いと最初のステップ」の記事もぜひ参考にしてみてください。
2. 見守りツールの活用(簡単なものから)
高価な介護ロボットや複雑なシステムではなく、比較的導入しやすいツールもあります。
- 簡易センサー: ベッドからの離床を感知するセンサーや、部屋の温度・湿度をチェックできるセンサーなどがあります。スマホ連携できるものもありますが、特定の場所に置くだけ、電源を入れるだけ、といった簡単なタイプも存在します。
- 見守りカメラ: 最近は設置が簡単で、スマホから様子を確認できるタイプも増えています。ただし、プライバシーへの配慮が非常に重要です。設置場所や利用方法については、親御さんとよく話し合い、同意を得ることが不可欠です。また、常にカメラ越しに見ていることが、かえってご自身の負担になる場合もありますので、使い方は慎重に検討しましょう。
- 地域による見守りサービス: 自治体や社会福祉協議会などが、地域のボランティアや民生委員と連携して、一人暮らし高齢者などを対象とした声かけや定期訪問などの見守り活動を行っている場合があります。ご自身の親御さんが対象となるか、地域包括支援センターなどに相談してみる価値はあります。
完璧を目指さない。「頑張りすぎない」心構え
見守り介護において最も大切なことの一つは、「完璧な見守りは不可能であり、目指す必要もない」と心に留めておくことです。どんなに注意していても、予測できないことは起こり得ます。
頑張りすぎてご自身が倒れてしまっては元も子もありません。見守りの負担を減らすことは、決して「手抜き」や「愛情がない」ということではありません。むしろ、ご自身が心身ともに健康でいることが、親御さんにとって最大の安心材料になります。
見守りの時間を減らすことに罪悪感を感じる必要はありません。確保できた時間で少しでも休息したり、好きなことをしたりして、心にゆとりを持つことが、日々の介護の質を高めることにつながります。
まとめ
自宅での見守り介護は、多くの介護者が抱える共通の悩みであり、心身に大きな負担をかけるものです。「見守り疲れ」のサインに気づき、自分自身を大切にすることから始めましょう。
自宅の環境整備、ルーティン化、簡単なコミュニケーション、そして介護サービスや見守りツールの活用など、負担を軽減するための方法はいくつかあります。最初から全てを完璧にやろうとせず、ご自身の状況や親御さんの状態に合わせて、できることから一つずつ取り入れてみてください。
一人で抱え込まず、使えるサービスや頼れる人を探すことも重要です。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談することで、思わぬ解決策が見つかることもあります。
見守りの負担を減らすことは、ご自身の心と体を守るための大切なステップです。頑張りすぎず、自分自身も大切にする視点を持って、日々の介護に取り組んでいきましょう。応援しています。