介護とお金の不安を軽くする。知っておきたい公的支援制度と負担軽減のヒント
介護にかかる費用への不安、一人で抱えていませんか?
日々の介護、本当にお疲れ様です。親御さんのケアに追われる中で、ご自身の時間や体力が削られているだけでなく、「この先、お金は大丈夫だろうか?」という漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
介護には、様々な費用がかかります。サービスを利用する費用、おむつなどの日用品費、医療費などが積み重なり、家計への負担は小さくありません。特に、自営業で先の見通しが立てにくい中、これらの経済的な不安は、心身の疲れをさらに重くしてしまうことでしょう。
ですが、介護にかかる費用を軽減するための公的な支援制度があります。これらの制度を「知っているか」「活用できるか」で、経済的な負担は大きく変わる可能性があります。一人で不安を抱え込まず、利用できる支援制度や負担を軽くするためのヒントを知り、賢く活用していくことが、ご自身を守ることにも繋がります。
この記事では、介護にかかる費用の目安と、利用できる主な公的支援制度、そして具体的な負担軽減のヒントをご紹介します。
介護にかかる費用を知る
まず、介護にはどのような費用がかかるのか、その目安を知っておくことが大切です。公益財団法人生命保険文化センターが行った調査(2021年度)によると、住宅改修や介護用ベッド購入などの一時的な費用として平均約74万円、月々の費用として平均約8.3万円がかかるとされています。
費用の内訳は、主に以下の通りです。
- 介護サービス費用: 介護保険制度を利用して、訪問介護やデイサービス、ショートステイ、施設サービスなどを利用する際の自己負担分です。
- 介護用品費: おむつ、パッド、ポータブルトイレ、介護食などの日用品にかかる費用です。
- 医療費: 介護が必要な状態にある場合、医療機関への受診や薬にかかる費用も増える傾向にあります。
- 住居関連費: 住宅改修費用、老人ホームなどの施設に入居する場合の家賃・食費・管理費などです。
- その他: 交通費、通信費など、介護に伴って増加する可能性がある費用です。
これらの費用がどのくらいかかるかは、要介護度や利用するサービス、介護の状況によって大きく異なります。重要なのは、これらの費用を全て自己負担する必要はないということです。
経済的な負担を軽減する主な公的支援制度
介護にかかる費用を軽減するための中心となるのが「介護保険制度」です。この制度を利用することで、サービス費用の自己負担割合が軽減されます。さらに、自己負担額には上限が設けられており、それを超えた分が払い戻される仕組みもあります。
1. 介護保険制度によるサービス利用時の自己負担割合軽減
要介護認定を受け、介護保険サービスを利用する場合、かかった費用のうち、原則として1割(所得に応じて2割または3割)を自己負担します。残りの9割(または8割、7割)は介護保険から給付されます。これにより、サービス利用のハードルが大きく下がります。
例えば、1万円分のサービスを利用した場合、自己負担は通常1千円、所得によっては2千円か3千円で済みます。
2. 高額介護サービス費制度
これが、月々の介護サービス費用の負担を大きく軽減する重要な制度です。介護保険サービスを利用して支払った1ヶ月の自己負担額の合計が、世帯の所得に応じて定められた上限額を超えた場合、超えた分が高額介護サービス費として支給(払い戻し)されます。
この上限額は、所得が高いほど高くなりますが、一般的には数万円程度に設定されています。例えば、所得の低い方(市町村民税世帯非課税)の場合、上限額は月額15,000円(個人の場合)または24,600円(世帯の場合)です。これにより、月の途中で高額なサービスを利用したり、複数のサービスを組み合わせて利用したりした場合でも、家計への影響を抑えることができます。
【ポイント】 * 払い戻しを受けるためには、多くの場合、市区町村への申請が必要です。 * 申請手続きについては、担当のケアマネジャーや市区町村の窓口に相談できます。
3. その他の公的支援制度
介護に関連する費用負担をさらに軽減できる可能性のある制度がいくつかあります。
- 高額医療合算介護サービス費: 医療保険と介護保険の両方を利用している世帯の、1年間の医療費と介護サービス費の自己負担額を合算し、基準額を超えた場合に、その超えた分が支給される制度です。医療費と介護費の両方の負担が大きい場合に有効です。
- 特定入所者介護サービス費(補足給付): 介護保険施設(特別養護老人ホームなど)やショートステイを利用する際の「食費」と「居住費」は原則として全額自己負担ですが、世帯の所得や預貯金が一定額以下である場合には、この費用の一部または全部が軽減される制度です。
- おむつ代の医療費控除: 医師による「おむつ使用証明書」や、要介護認定を受けている方は市町村が発行する書類など、一定の条件を満たす場合、医療費控除として所得税の確定申告で控除を受けられる可能性があります。これは直接的な支出を減らすものではありませんが、税金負担を軽減できます。
具体的な負担軽減のヒント
これらの制度を「知っている」だけでは、実際にお金の不安を軽くすることはできません。大切なのは、これらの制度を「どう活用するか」です。
ヒント1:まずは担当のケアマネジャーに相談する
要介護認定を受けている方は、担当のケアマネジャーさんがいるはずです。ケアマネジャーさんは、ご本人の状況やご家族の意向に合わせてケアプランを作成するだけでなく、利用できる介護サービスや公的支援制度についても詳しい情報を持っています。
「介護費用が心配」「使える制度を知りたい」と率直に相談してみましょう。ご家庭の経済状況を伝えれば、高額介護サービス費制度の対象になるか、特定入所者介護サービス費が利用できるかなど、具体的なアドバイスをもらえます。制度利用のための申請手続きのサポートもしてくれる場合があります。
ヒント2:地域包括支援センターを活用する
要支援認定を受けている方や、まだ介護認定を受けていないけれど介護について不安がある方は、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談できます。地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを地域で支えるための拠点であり、保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が配置されています。
介護保険制度に関する情報提供や、利用できるサービス、公的支援制度についての相談に乗ってくれます。どこに相談して良いか分からない場合は、まず地域包括支援センターに連絡してみましょう。
ヒント3:具体的な支出を把握し、家計を見直す
漠然とした不安は、具体的な数字を知ることで軽減されることがあります。まずは、現在の介護にかかっている費用をリストアップしてみましょう。サービス費用、おむつ代、通院費など、毎月どのくらい支出があるのかを把握します。
その上で、無理のない範囲で家計全体を見直してみるのも良いでしょう。介護以外の支出で削減できる部分はないか、なども検討してみます。ただし、ご自身の食費や趣味など、心身の健康を保つために必要な費用まで削りすぎないよう注意が必要です。
ヒント4:民間の介護保険や共済なども情報収集の対象に
公的な制度だけでなく、民間の保険会社の介護保険や、都道府県民共済・コープ共済などが提供する共済制度の中にも、介護一時金や年金が支払われるものがあります。これらは、将来的な介護費用に備えるためのものですが、すでに介護が始まっている場合でも、今後の金銭的なリスクを軽減するために情報収集してみる価値はあるかもしれません。ただし、契約内容や保障範囲をしっかりと確認することが重要です。
お金の不安を和らげ、自分自身も大切にするために
介護にかかる費用は決して軽視できない問題です。その不安から、必要なサービス利用をためらったり、ご自身が我慢したりしてしまうと、心身の負担は増すばかりです。
しかし、ご紹介したように、公的な支援制度は確かに存在します。これらの制度を適切に利用することで、経済的な負担は確実に軽減できます。「情報収集が苦手だから…」と諦めず、まずはケアマネジャーさんや地域包括支援センターといった「専門家」に相談してみてください。彼らは、複雑に感じられる制度を分かりやすく説明し、手続きをサポートしてくれる心強い味方です。
お金の不安を少しでも軽くすることは、介護を長く続けていく上で、そして何より、ご自身が健やかに生活していく上で非常に重要です。使える制度は賢く使い、家計の負担を軽減して、ぜひご自身の休息やリフレッシュの時間も大切にしてください。あなたは一人ではありません。必要な支援を受けながら、ご自身もケアすることを忘れないでください。