介護で慌てないために。親と話しておきたいお金のこと、伝え方のコツ
日々の介護、そして見えない将来への不安
高齢のご家族を支える日々の生活、本当にお疲れ様です。毎日のケアに追われ、ご自身の心や体の疲れを感じることも多いのではないでしょうか。先の見えない介護の道のりでは、親御さんの体調はもちろん、お金に関する不安もつきものかもしれません。
介護にかかる費用は、公的なサービスを利用しても自己負担が発生します。また、医療費や施設入居の費用など、まとまったお金が必要になる可能性もあります。親御さんの財産状況や、将来のお金に関する考え方が分からないままだと、「もしもの時」にどうすればいいのか、誰が負担するのか、といった不安が募ってしまいがちです。
しかし、親御さんとお金の話をするのは、なかなか難しいと感じる方もいらっしゃるでしょう。「親に失礼にあたるのではないか」「縁起でもないと思われるのでは」と躊躇したり、あるいは単純にどこから手をつけていいか分からなかったり。
この記事では、日々の介護に奮闘されているあなたが、将来の負担を少しでも軽減し、ご自身の安心のためにも、親御さんと「お金」について話し合うことの重要性と、具体的な進め方や話し方のヒントをお伝えします。新しいツールやサービスに詳しくなくても大丈夫です。できることから、一緒に考えてみましょう。
なぜ、今、親御さんとお金の話をする必要があるのか
お金の話はデリケートですが、親御さんが心身ともに元気なうちに話し合っておくことには、大きな意味があります。
1. 親御さんの意思を尊重するために
親御さんがご自身の財産をどのように管理し、将来をどう過ごしたいと考えているのか、その意思を確認することができます。判断能力がしっかりしているうちに意向を聞いておくことは、後々の後悔を防ぎ、親御さんの尊厳を守ることにもつながります。
2. 将来の介護や医療にかかる費用に備えるために
どのような介護サービスや医療を希望されるのか、それにどれくらいの費用がかかる可能性があるのかを把握し、親御さんの現在の財産でどこまで賄えるのか、あるいは不足分をどう補うのか、といった具体的な計画を立てる第一歩となります。
3. 家族間の不要なトラブルを防ぐために
兄弟姉妹がいる場合、親御さんの財産や介護費用の分担について、考え方が異なることもあります。親御さんの意思や財産状況を家族で共有しておくことで、将来の相続を巡る争いや、介護負担に関する不公平感といったトラブルを未然に防ぐことにつながります。
4. 「もしも」の時に慌てないために
親御さんの体調が急変したり、認知機能が低下したりすると、お金に関する手続きや財産管理が難しくなることがあります。どこにどのような財産があるか、どのような契約をしているかなどを事前に把握しておけば、急な事態にも落ち着いて対応できます。
親御さんと具体的に何について話しておくべきか
では、実際に親御さんとどのような内容について話し合っておくべきでしょうか。一度に全てを聞き出す必要はありません。時間をかけながら、少しずつ共有していく視点が大切です。
- 現在の財産状況について:
- 預貯金はどの銀行にいくらくらいあるか。
- 不動産(自宅、土地など)はどこにあるか。
- 有価証券(株や投資信託など)は持っているか。
- その他、価値のあるもの(貴金属、骨董品など)はあるか。
- 収入について:
- 年金はいくらくらい受給しているか、振込先はどこか。
- 他に定期的な収入はあるか。
- 保険について:
- 生命保険や医療保険、火災保険などに加入しているか。保険会社の名前や証券の保管場所。
- 借入金について:
- 住宅ローンやその他の借入金はあるか。
- 毎月の支出について:
- 生活費、公共料金、税金、医療費などでだいたいどのくらい使っているか。
- 介護に関する希望:
- 将来、どのような場所(自宅、施設など)で介護を受けたいか。
- 費用について、どのように考えているか。
- 医療に関する希望:
- 延命治療について、どう考えているか。
- 希望する医療機関など。
- 葬儀やお墓に関する希望:
- どのような形式の葬儀を望むか。
- お墓はどこにあるか、管理はどうするか。
- 遺言書について:
- 遺言書を作成しているか、内容はどのようなものか、どこに保管しているか。
これらの情報を整理しておくことは、あなたが親御さんの介護や将来をサポートしていく上で、大きな助けとなります。
どうやって切り出す? 親御さんとお金の話をするためのヒント
お金の話を切り出すのは勇気がいることです。しかし、伝え方や状況を選ぶことで、スムーズに進められる可能性が高まります。
1. きっかけを見つける、あるいは作る
テレビのニュースで相続や介護費用に関する話題が出たとき、親戚や知人の介護の話を聞いたときなど、日常の出来事をきっかけにするのは一つの方法です。あるいは、「最近、知人がエンディングノートを書き始めたと言っていて、少し気になったから」「将来、もし何かあった時に、お父さん/お母さんの望むようにしてあげたいから、少し話を聞かせてもらえる?」など、あなた自身の不安や親御さんへの気遣いを伝える形で切り出すのも良いでしょう。
2. 親御さんの体調や気分が良い時を選ぶ
親御さんが疲れていたり、機嫌が悪かったりする時は避けましょう。リラックスできる時間や、一緒にいる時に自然な流れで話せるタイミングを見計らいます。
3. ポジティブな視点で伝える
「もしもの時に困るから」「財産をはっきりさせておかないと」といった不安を煽るような言い方ではなく、「将来の安心のために」「お父さん/お母さんが希望する生活を送るために」といった、前向きな目的で話したいことを伝えます。
4. 親御さんのペースを大切にする
一度に全てを聞き出そうとせず、親御さんが話せる範囲で答えてもらう姿勢を持ちましょう。答えにくいことや、話したくないこともあるかもしれません。無理強いせず、「今日はこのくらいにして、また改めて話せたら嬉しいな」と、次の機会につなげる柔軟さも必要です。
5. 聞く姿勢を大切に
親御さんの話に耳を傾け、途中で口を挟みすぎないように心がけましょう。たとえあなたが把握している情報と違っていても、まずは親御さんの話を聞くことが重要です。「そうだったんだね」「知らなかったよ」と、寄り添う姿勢を見せることが、信頼関係を保つ上で大切です。
6. 記録を残す(簡易的な方法でOK)
話し合った内容や確認できた財産に関する情報は、忘れないように記録しておきましょう。高機能なアプリや複雑なシステムを使う必要はありません。ノートに手書きでメモしたり、PCのテキストファイルや簡単な表計算ソフトに入力したりするだけでも十分です。重要な書類の保管場所なども、あなたや他のご家族が分かるように整理しておくと安心です。
7. エンディングノートを活用する
エンディングノートは、ご自身の終末期や死後に向けた希望、財産に関する情報などを書き残すことができるノートです。これ自体に法的な効力はありませんが、親御さん自身が自分のペースで情報を整理し、家族に伝えたいことをまとめるツールとして役立ちます。「一緒にエンディングノートを見てみない?」などと誘い、書き込みながら、あるいは書かれた内容を見ながら話し合うのも良い方法です。書店やインターネットで様々な種類のものが販売されています。
必要に応じて専門家や地域の支援を頼る
お金や相続に関する問題は、専門的な知識が必要になることもあります。また、家族だけでは話し合いが難しい場合もあります。そんな時は、一人で抱え込まず、外部の支援を頼ることも検討しましょう。
- 地域包括支援センター: 高齢者の生活を支える地域の総合相談窓口です。介護保険サービスだけでなく、様々な相談に応じてくれます。
- ファイナンシャルプランナー: 将来のライフプランや資産形成について専門的なアドバイスをしてくれます。介護費用なども含めた相談が可能です。
- 弁護士、司法書士: 相続や財産管理、遺言書の作成など、法的な手続きが必要な場合に相談できます。
- 税理士: 相続税など、税金に関する相談ができます。
これらの専門家は有料の場合が多いですが、初回相談は無料としているところもあります。地域包括支援センターは公的な機関ですので、まずは気軽に相談してみるのも良いかもしれません。
まとめ:将来への安心は、今日の一歩から
親御さんとお金の話をすることは、介護の負担が増える前に、将来の不安を減らし、あなた自身の安心につながる大切な一歩です。デリケートな話題だからこそ、切り出すことに躊躇したり、話し合いがスムーズに進まなかったりすることもあるでしょう。完璧を目指す必要はありません。
大切なのは、親御さんを思いやる気持ちを持ちながら、できる範囲で少しずつ、根気強く向き合っていくことです。今日すぐに全ての財産を把握できなくても、まずは「年金はどこに振り込まれているの?」といった簡単な質問から始めてみたり、一緒にエンディングノートを眺めてみたりするだけでも良いのです。
この話し合いを通じて、親御さんの思いを知り、財産に関する情報を整理することは、将来の介護や相続の場面で、必ずあなたの助けになります。そして何より、一人で抱え込んでいた漠然とした不安が、具体的な情報に変わることで、心の負担が少し軽くなるはずです。
あなた自身が心身ともに健やかでいることが、長く穏やかな介護を続けていくための基盤となります。将来への安心を整えるための行動は、あなた自身を大切にすることにもつながるのです。今日から、できることから一歩ずつ進めてみませんか。