介護の負担を「モノ」で軽くする。福祉用具・介護用品の賢い選び方と活用法
毎日の介護、「つらいな」と感じたら
日々の介護、本当にお疲れ様です。親御さんのために、毎日一生懸命ケアされていることと思います。その一方で、「なんだか体がだるい」「腰が痛い」「以前より疲れが取れない」と感じることはありませんか。立ち上がりや移動、入浴の介助など、毎日の積み重ねが、知らず知らずのうちにご自身の体へ負担をかけているのかもしれません。
介護は長く続くものです。大切な親御さんを支え続けるためには、まずご自身の心と体が健康であることが何よりも重要です。「自分自身を大切にすることも、介護の一部なのだ」と捉えていただけたら幸いです。
そのために、介護の負担を少しでも軽減できる「頼れるパートナー」として、福祉用具や介護用品を活用してみてはいかがでしょうか。これらは単に便利なだけでなく、介護する方の体への負担を減らし、安全性を高めることにも繋がります。今回は、福祉用具・介護用品がどのように役立つのか、そして、どのように選んで活用すれば良いのかについてお伝えします。
福祉用具・介護用品が介護者の負担を軽くする理由
福祉用具や介護用品は、高齢の方の生活をサポートするために開発された様々な道具です。手すり、歩行器、車椅子、介護用ベッド、ポータブルトイレ、入浴補助用具など、その種類は多岐にわたります。
これらの用具を適切に使うことで、介護が必要な方ができることを増やし、自立を促す効果が期待できます。そして、それは同時に、介護をする方の身体的な負担を大きく軽減することに繋がるのです。
例えば、
- 立ち上がりや歩行の介助:手すりや歩行器があれば、本人が自分で体を支えやすくなり、介護者が体を支える力を減らせます。転倒の不安も軽減されます。
- ベッドからの起き上がり・移動:介護用ベッドやリフトがあれば、抱きかかえたり、無理な姿勢で介助したりすることなく、安全に移動できます。夜間の体位変換なども楽になります。
- 排泄の介助:ポータブルトイレを居室に置けば、トイレまでの移動介助の回数を減らせます。また、おむつ交換の際に便利な用具もあります。
- 入浴の介助:入浴用椅子や手すり、滑り止めマットなどがあれば、浴室での転倒リスクを減らし、安全に体を洗う介助ができます。シャワーチェアがあれば、立位での介助による腰や膝への負担が減ります。
このように、福祉用具・介護用品は、介護における様々な動作を補助し、介護者が行う介助の量や強度を物理的に減らす助けとなります。それは、腰痛や膝痛といった職業病とも言える介護者の体の痛みを予防・軽減し、体力を温存するために非常に有効です。
賢い福祉用具・介護用品の選び方
福祉用具・介護用品には様々な種類があり、「どれを選べば良いのだろう?」と迷ってしまうかもしれません。闇雲に購入するのではなく、いくつかのポイントを押さえて賢く選ぶことが大切です。
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親御さんの体の状態や必要なサポートを明確にする
- どのような動作(立ち上がり、歩行、排泄など)に難しさがあるのか?
- どのようなサポートがあれば、安全に、そして楽にその動作ができるのか?
- 今後の体の状態の変化も考慮に入れる必要があります。
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ご自身の介護の状況と負担を考える
- どのような介助に一番負担を感じていますか?
- その負担を軽減するために、どのような用具が役立ちそうでしょうか?
- 無理なく安全に使い続けられる用具を選ぶことが重要です。
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住環境を考慮する
- 設置スペースは十分にあるか?
- 段差や廊下の幅など、家屋の構造に合うか?
- 滑りやすい場所はないか?
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専門家のアドバイスを求める
- ここが最も重要なポイントです。ご自身だけで判断せず、専門家(ケアマネジャーや福祉用具専門相談員)に相談しましょう。
- ケアマネジャーは、親御さんのケアプランを作成する中で、必要な福祉用具についても一緒に検討してくれます。
- 福祉用具専門相談員は、福祉用具に関する専門知識を持ち、体の状態や住環境に合わせて最適な用具を選定する手伝いをしてくれます。使い方のアドバイスや、設置、調整も行います。
専門家は、親御さんの心身の状態だけでなく、介護者の状況やご自宅の環境なども総合的に判断し、最も適切で効果的な用具を提案してくれます。また、介護保険のサービス利用についても詳しい情報を持っています。
介護保険を活用した利用方法(レンタルと購入)
多くの福祉用具は、介護保険制度を利用してレンタルしたり購入したりすることができます。介護保険を使えば、費用の自己負担割合は原則1割(所得によっては2割または3割)となりますので、経済的な負担を大きく減らすことができます。
介護保険で利用できる福祉用具は、「福祉用具貸与(レンタル)」と「特定福祉用具販売(購入)」の2種類に分かれています。
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福祉用具貸与(レンタル)
- 比較的高価で、体の状態の変化に合わせて種類やサイズを変える可能性のある用具が対象です。
- 対象品目例:車椅子、車椅子付属品、特殊寝台(介護用ベッド)、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり(工事不要のもの)、スロープ(工事不要のもの)、歩行器、歩行補助杖、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト、自動排泄処理装置(一部)
- レンタルなので、必要な期間だけ利用でき、不要になれば返却できます。メンテナンスも事業者が行います。
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特定福祉用具販売(購入)
- 排泄や入浴など、肌に直接触れる性質上、衛生上の観点からレンタルになじまない用具が対象です。
- 対象品目例:腰掛便座(ポータブルトイレなど)、自動排泄処理装置の交換可能部品、入浴補助用具(入浴用椅子、浴槽手すりなど)、簡易浴槽、移動用リフトのつり具部分
- こちらは購入となり、年間10万円を上限として、費用の1割(または2割、3割)が自己負担となります。
利用の流れ
介護保険で福祉用具を利用したい場合、まずは担当のケアマネジャーに相談するのが一般的な流れです。
- ケアマネジャーに相談:親御さんの状態や介護で困っていること、使ってみたい福祉用具などについて話します。
- アセスメントとケアプラン作成:ケアマネジャーが親御さんの状態やご自宅を訪問してアセスメントを行い、福祉用具の利用が必要と判断されれば、ケアプランに位置づけます。
- 福祉用具専門相談員との連携:ケアプランに基づき、ケアマネジャーは提携している福祉用具貸与・販売事業所へ連絡します。事業所の福祉用具専門相談員が自宅を訪問し、親御さんやご家族の状況を詳しく伺い、最適な用具を選定します。
- 契約とサービス開始:選んだ用具について、契約内容や自己負担額を確認し、同意すれば契約となります。その後、用具が届けられ、使い方の説明を受けます。
このように、介護保険を利用するには、ケアマネジャーのサポートが不可欠です。まだ担当のケアマネジャーがいない場合は、お住まいの市区町村の地域包括支援センターに相談すれば、ケアマネジャーを紹介してもらえます。
実際に福祉用具を活用している方の声
福祉用具をうまく活用することで、介護者の負担がどれだけ軽減されるか、他の介護者の方々の声を聞いてみましょう。(※個人の特定につながらないよう、内容をまとめています。)
- 「親が夜中にトイレに行く回数が増えて、そのたびに起こされるのがつらかったのですが、ポータブルトイレを寝室に置いたら、移動介助がほとんどなくなり、自分の睡眠時間も確保できるようになりました。」
- 「ベッドからの起き上がりが大変で、毎回腰に負担がかかっていました。レンタルで介護用ベッドを導入したら、高さ調節ができるので介助が格段に楽になり、親も起き上がりやすそうです。」
- 「お風呂場が滑りやすくて、介助中はいつもヒヤヒヤしていました。手すりと滑り止めマットを設置し、シャワーチェアを使ったら、親も私も安心できるようになり、お風呂に入れるのが苦にならなくなりました。」
- 「ケアマネジャーさんに相談するまでは、どんな用具があるのか、介護保険が使えるのかもよく知りませんでした。専門家のアドバイスを聞いて、自分たちの状況に合ったものを選べたのが本当に良かったです。もっと早く相談すればよかったと思っています。」
これらの声からもわかるように、福祉用具は介護者の体への負担を軽減し、介護を継続していくための強力な助けとなります。
まとめ:一人で抱え込まず、使えるものは活用しましょう
高齢の親御さんを支えることは、決して簡単なことではありません。特に、日々の身体的な負担は、ご自身の健康を損なう原因にもなりかねません。
今回ご紹介した福祉用具・介護用品は、その負担を軽減するための有効な手段の一つです。これらを活用することは、決して「楽をすること」や「親のために十分なことをしていない」ということではなく、むしろ介護を長く、そして安全に続けていくために、ご自身の体と心を守るための大切な選択です。
「情報収集は苦手だし、手続きも難しそう…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご安心ください。介護保険の申請やケアプランの作成、福祉用具の選定と手配など、一連の手続きは、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員といった専門家がしっかりとサポートしてくれます。まずは一人で悩まず、地域の地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに「介護が大変で、少しでも負担を減らしたい」と相談してみてください。
福祉用具・介護用品は、親御さんの自立を助け、そして何よりも、介護者であるあなたの体と心を守るための「頼れるパートナー」です。使える制度やサービスは積極的に活用し、ご自身のケアも大切にしながら、無理のない介護を続けていきましょう。応援しています。